
短編小説『約束の地』冒頭公開
Novel based on the album “約束の地”
崩れた高速道路。
燃える車。
「何でこんなことになっちまったんだ…」
銃声。爆発。
「ゾンビだ!撃て撃て!!」
腐った顔の群れが、うねるように押し寄せてくる。
自動小銃をフルオートで、目の前の一群を薙ぎ払う。
砕ける顔。
ボロボロと崩れながら、そのゾンビがオレに言った。
「…お前らゾンビは、必ず、滅ぼす…」
耳を疑った。
どういうことだ?
次の瞬間、右目の視力がなくなった。
腐った眼球が、抜け落ちたのだ。
「…オレたちの方も、ゾンビだったのか…?」
空が白く染まる。
いくつもの白い筋が落ちてくる。
崩れたビルの向こうから、
眩しすぎる閃光が広がっていく。
もう戻れない。気がつくのが遅すぎたんだ。
巨大な閃光は、ビルを次々と飲み込んでいく。
数秒遅れて、衝撃波。
世界は沈黙した――。
《DECAY FOR SILENCE》
暗転した画面に、大きく表示された。
…ラストにようやく、タイトル登場かよ。
駄作ほどだいたい、もったいつけやがる。
B級のメタルギターと共に、エンドロールが流れはじめる。
「――くだらね。時間損したわ」
リモコンを切る。
テレビ画面が黒くなり、
映り込んだ自分の顔と目が合った。
老けてんなぁ…。
スマホを見る。
七時十二分。最悪だ。
シャワーを浴びながら、さっきの映画を思い出す。場違いな華やかな匂いで、シャンプーを間違えたことに気がつく。
もう捨てなきゃな…。
ゾンビ。核。沈黙エンド。
なんだよ、あれ。
「世界滅びて終わりかよっ」
タオルで頭を拭きながら、思わず声が出た。
現実の方がよっぽど戦場だ。
世界は滅んでくれない。
満員電車。
終わらない仕事。
正解のない会議。
誰も噛みついてこない代わりに、
毎日じわじわ体力を削ってくる。
スーツを着て、ネクタイを締める。
鏡の中の自分は、
ちゃんと〝大人の顔〟をしていた。
本音はしまい込んで、
不満は飲み込んで、
とりあえず笑っておく。
ポジティブ。前向き。自己責任。
そう唱えないと、立っていられない。
鈍感になれ。
感じるな。考えるな。
それが生き残るコツだ。
駅のエスカレーターに並び、スマホを眺める。
戦争。事件。炎上。誰かの謝罪会見。
世界は今日も、平常運転らしい。
「ま、いっか」
ゾンビはいない。核も落ちてこない。
少なくとも――今日のところは。
クレームを処理し続ける一日だった。アタマを下げるのはタダだし、
ぜんぜん平気。これも経験。成長するってことは、大人になるってことさ。
今日もGOOD TIMEさ!
結局、
帰りのコンビニで、普段より、
一本多くハイボールを買ってしまった。
一日が終わる。
その夜、久しぶりに夢を見た。
巨大な卵のような、ふわふわしたものがそこにあった。
雲とも膜ともつかない半透明の層が、何重にも重なっている。
分厚いオブラートをかき分けるように、内側へ進んだ。
目の前に、誰かが立っていた。
――少年だ。
涙で顔は濡れている。
袖は破れて、腕と太ももには、乾ききらない血の跡。
痛みに、泣くのを止められない顔をしていた。
「キミは……」
「ウソつき!」
少年が叫んだ。
「え……は? オレが?
てか、お前……誰?」
「そうだよ。ずっとウソばっか。
キミとボクとで約束したじゃん。
連れてってくれるって」
「知らねーよ……。もう、分けわかんね」
「あの場所のこと、忘れたの?」
「んー……ちょっと何言ってんのか分かんない。
あのう……人違いじゃありませんか?
オレ、子供もいねーし、初対面ですよ?」
「なわけねーだろ!」
少年の声が裏返った。
「ふざけんなよ!
これだけ待たせといて!
約束の場所に、さっさと連れてけよ!」
……落ち着こう。いったん落ち着こう。
クレーム対処は、いつもオレに回ってくる。
こういうカスハラには、慣れてる……はずだ。
少年は、息を整えるみたいに鼻をすすって、続けた。
「仕事、仕事、ばっかじゃん。
あとは飲んだくれて、動画つけっぱで寝るだけ」
こいつ……優しくしとけば――
「見てきたようなこと言うなって。
オトナ、舐めんな。どっか行けって」
「どこにも行けなくしてんのは、おめーだろ!
はやくボクを連れてけって!」
「はぁ? なんでオレが?
お父さんにお願いしなさいって……」
なんて教育の出来てない子供だ。
可哀想に思えてきた。
少年は、ため息をついて、静かに言った。
「ねぇ。仕事って楽しいの?」
「楽しかねぇよ」
「でも、ずっと毎日やってるじゃん」
「そりゃ、働かなきゃおかしいだろ。
歳くったら、お前も働き続けるんだぞ。
男は働いて、ナンボだ」
――言ってやった。
「褒められるから?」
「……叱られるからだよ。……いっつもな」
「叱られるの怖いから、やらされてるの?」
「あのなー……仕事しないと食っていけねえじゃん。
当たり前なの!」
「当たり前って言う人は、
ありがとうできないってお父さんが言ってた」
「うるさいなあ……有難くもなんもねぇんだよ。
生きていくためなの!」
少年は、少し首をかしげた。
泣き顔のまま、じっと見てくる。
「ずっと、ギター弾いてないね。
好きじゃなくなった?」
「ちょ、おま……!なんでそれを」
――ぐっと喉の奥が、締め付けられた。
「オトナはね、役に立つことしかしねーの!」
「ヤクニタツ? どういう意味?
ギターのこと嫌い?
ボク、またギター聴いてたい」
「……と、とにかくさ。
こんな歳くってるオッサンが、ヘタクソとか恥ずかしいだろ。
それに、忙しいの!」
「ねぇ、あの時さ…」
少年は、なぜか懐かしそうに笑った。
「ぐわーん!って、すごい音がしてさ。
耳が、わーっ!てなったの憶えてる?」
「……は?」
「変なギターだったよね。
三角みたいで」
心臓が、どくんと鳴った。
* * *
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