インディ・ジョーンズ 剣山の秘宝〈第7話〉

2026/01/15オルト

「アジトが地底王国とは恐れ入ったな」

「黙って歩け。」

軽口をたたくインディの背中を、米田が銃口でつついた。

インディの隣を歩く文子は振り返らない。
その後ろにも二人。
小銃を構え、距離を保ったまま進む。

 

通路は狭く、天井は低い。
靴音が、湿った壁に吸い込まれていく。
どこかで、水が滴る音。

やがて通路が開けた。

 

巨大な地下倉庫。

戦車。
重機関銃。
野戦砲。
木箱に詰められた榴弾と砲弾。

一面の“兵器”。

インディは、思わず口笛を吹いた。

 

「ゲリラの隠れ家にしちゃ、ずいぶん景気がいい」

文子が、前を向いたまま答える。

「アメリカの横流しと、巨額な資金。
想像つくでしょ。“誰が”出しているか」

米田は続きを聞きたそうに黙っていた。
だが、文子はそれ以上語らなかった。

 

遠くで、発電機の低い唸りが聞こえてきた。
壁には、黒いケーブルが束で走っている。

曲がり角を抜ける。
突き当りに鉄の扉。

脇にプレートがあった。

 

英語。赤い文字。

RESTRICTED AREA

その下には、三つ葉の印。
放射線管理区域。

 

「入れ」

米田は、鉄扉を開けながら顎で合図した。

 

その向こうは、もはや軍事施設ではなかった。

白い蛍光灯。
整然と並ぶ机。
真新しい計器。
壁一面の図面。

“研究室”だった。

机の向こうに、二人。
白衣姿の仁科と、将校姿の石室少佐が待っていた。

 

「ようこそ。ジョーンズ博士。
あなたの協力が必要です」

インディが薄く笑う。

「……協力?
この国じゃ人にものを頼むとき、殴って捕まえるのか?」

石室が遮る。

「お前の国も一緒じゃないのか。質問だけに答えろ。」

 

仁科は気にせず続ける。

「あなたが仁徳天皇陵から持ち帰った“八咫鏡”」

仁科は机の上に置かれた布を開いた。

黒い鏡が現れる。
菊の花のような形。
表面は光を飲み込む。

 

文子が息を呑む。

「……それを、どうするつもり」

仁科は淡々と言う。

「調べました」

インディは鏡を凝視した。
次の言葉を待つ。

 

「純度100%の黒曜石でした。加工痕も新しい
つまり――」

インディが言う。

「ただの石だ」

仁科は頷く。

 

「これに“神の力”があるとは思えません」

「そんな……!」

文子が声を上げる。

米田は銃を構えながら、驚き石室を見た。
石室は、鋭い目線をインディから逸らさない。

 

インディは大笑いしながら言った。

「レプリカだよ。仁徳天皇陵に“本物の神器”が眠ってるわけがない」

石室の目が鋭くなる。

「根拠は?」

インディは肩をすくめた。

「神器ってのは“王権”と一緒に動くか?」

仁科が少し身を乗り出す。

「……王権?」

 

「仁徳の時代、皇位は河内王朝だ。
前の皇位が、簡単に三種の神器を渡すものか。
それに、ホンモノを墓に残すはずがない。」

 

「日本史にも精通してらっしゃる。やはり私の目に狂いはなかった」

「刻まれてる文字も新しすぎる。
洪水神話以前の遺物なら、ヘブライ語なんて出てこない」

「洪水?」

仁科は目を見開いた。

 

「そうだ。ノアの箱舟が漂着したのは日本だ。
漂着したアララト山にある”天岩戸”に隠されている。そう思うのが筋だろ」

「私から奪った古文書に書かれていたのですね。
持ってますね?」

文子が低く言う。

「ダメ。協力しないで」

インディは鼻で笑う。

「持ってるもんか。俺の頭の中だ」

仁科は気にしない。

「一緒に解き明かしませんか」

 

石室が二人の間を割り込み、
黒い包みを両手で丁寧に机に置いた。
七〇センチほどの細長い包み。

 

仁科が続ける。

「天叢雲剣(あめのむらくものつるぎ)です。
石室少佐が、手に入れてくれました。本物です。」

「草なぎの剣…」
インディは目を見張った。

「盗んだのね」

「お預かりしている。必要だからだ。」
文子の問いに石室は答えた。

 

「なぜ草なぎの剣が必要か…
破れた文献では、分からなかったでしょう。
お教えしましょうか?博士」

仁科を遮り、文子が間に入った。
「話を聞いちゃダメ!」

インディは黙る。

 

仁科はあっさり諦めた。

「分かりました――。
私にとっては、どちらでもいいことです。
使えない”神の力”など意味がない。
私の新型爆弾で、十分でしょう。」

 

「新型爆弾……」

文子は知っていた。
“神の力”が使えなかったときの次の策。
ここで八咫鏡を止めても無駄なのだ。

 

石室が、低い声で静かに仁科に言う。

「爆弾一発で、軍事バランスは変えられない」

仁科が石室を見る。

「……変えられない?」

 

石室はまっすぐに、仁科の目を見た。

「日本の自立には、上位の圧倒的優位が必要だ。
八咫鏡の力が無い今、新型爆弾を使えば日本は自滅する」

文子は驚いた。
石室少佐が自分と似た結論にいることに。

 

石室は鋭い目線で、インディを見た。

「どこにある」

インディは答えない。
口を閉じて、視線を逸らす。

 

石室が合図した。
米田が小銃のボルトを引く。

銃弾が装填される音が部屋に響いた。

米田の銃口は文子に向いた。

文子は瞬きもせず、銃口を見ている。

 

「覚悟は出来てる…言わないで!」

石室は即座に言った。

「撃て」

「四国だ!!!」

インディは叫んでいた。

 

「四国のどこだ」

「続きは、行く途中にな。今は言わん」

 

石室は一拍置いて頷いた。

「いいだろう。十分だ。」

 

通路を戻り、倉庫のさらに奥へ進む。
空気が変わった。

潮の匂いと、鉄の匂い。
波の音と、海の冷たい風。

地下の巨大な空洞。

 

そこに黒い怪物が浮かんでいた。

艦橋には、三本足のカラスのマーク。
その下に書かれた文字は「イ-403」
巨大な潜水艦だった。

 

「……本気かよ」

文子は答えない。
水兵たちが整列し、石室と仁科に敬礼する。

 

そのとき。クレーンが唸った。

鎖がきしみ、
巨大な円筒が宙を動く。

 

伊四〇〇型潜水艦の“格納庫”――

かつて”潜水空母”、と呼ばれたこの艦。
本来、飛行機を積む場所へ、吊り下ろされていく。

円筒の側面。
放射線管理マーク。

インディが目を細める。

「……原子爆弾か?」

 

仁科は楽しそうに答えた。

「いいえ」

「オッペンハイマー君が作ったような
“原始的”なものじゃない」

 

「……じゃあ何だ」

仁科は、少しだけ笑う。

「プレゼントですよ。彼へのね。」

 

仁科は立ち止まり、眺めていた。
目線が、クレーンに吊るされた円筒から離れない。

それはまるで、
自分の子供を見送るかのようだった。

 

カン、カン、カン、カン!
潜水を警告する音が艦内に響いた。

金属音とともに上部ハッチが閉まる。
内側から、素早い手つきでハンドルが締められていく。

潜水艦イ-403は、ドックの水面を静かに割り、
沈降していった。

 

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