インディ・ジョーンズ 剣山の秘宝〈第2話〉

2025/11/29オルト

1950年、アメリカ・プリンストン大学
午後の柔らかな陽光が、講義室に注ぎ込んでいた。

「——つまり、八咫鏡の伝承は単なる神話ではなく、
大陸の古層文明との接点を示している可能性がある」

チョークを置いたインディアナ・ジョーンズ博士が、ゆっくりと学生たちを見渡した。

「なにか、質問は?」

学生たちはざわつきながら、ぞろぞろと講義室を退出していく。
学生をかき分け、ベージュのスーツを着た初老の男が入ってきた。

マーカス・ブロディ博士だ。

「インディ、話がある。大事なことだ」

 

人がはけていくのを待って、ブロディは続けた。

「インディ……アークはひとつじゃなかったのかもしれん」

「まさか“予備”があったとでも?」

「いや、違う。
“最初に作られた箱”があるかもしれん。
モーセ以前の……契約のもっと古い形だ」

 

深刻な表情になり、何も言わず次の言葉を待つインディ。

 

「いや、正確に言うとオリジナルはひとつ。
モーセが受け継いだ契約の箱だけだ。
これを見てくれ」

マーカスが古い羊皮紙の束を机に置く。

「これはモンゴルの修道院が持っていたものだ。
東の果てで“失われた箱が海を割った”と記されている。」

マーカスは続けた。

「学者の間ではこう考える人もいてな…
モーセの石板以前——いや、はるか太古のノアやアブラハムの時代から、
何らかの神との契約を刻んだ”記録媒体のようなもの”があった可能性があるということだ。アークは箱そのものではない。
正確に言うとこれはアークじゃない。
…いや、アークの”原型”というべきだろう。」

 

マーカスの目をみつめながら、高揚した笑みで顔に皺を刻むインディは笑いで遮った。

 

「ははっ!ははっははは!!やはりそうか。
そう。知ってるんだよ。この古文書を見ろ。」

インディは棚から紙片を取り出した。
モンゴルの寺院の地下で、仁科博士から奪った古文書の半分だ。

 

「船団が、戦いで沈没していく絵だな。
光のような神的なものに、罰を与えられているようだ。」

 

二つの文献が並ぶと、一つの結論が導き出された。

 

「アークだ。アークは日本にある。」

「向かう気か?」

 

インディは帽子をかぶると、
ニヤッと笑ってみせた。

 

パンアメリカン航空の旅客機は、ニューヨークのアイドルワイルド空港を飛び立った。
サンフランシスコに到着すると、そこから長距離国際便に乗り換える。

ハワイを経由しウェーク島へ。
グアムに到着し、ようやく羽田空港に降り立った。

 

夜行列車が着いた先は、GHQ統治下の京都。
路地は迷路のように細い。

軒先の影に芸妓や客引きが、ちらっと見える。
腕章を付けた若い白人のMPが、こちらを眺めながら通り過ぎる。

 

戦争の匂いは薄れたが、支配と緊張の空気はまだ残っていた。

高い板塀を見上げながら、インディは今晩の宿を探していた。

 

背後に石畳を、わずかに鳴らす靴音の違和感を感じていたが、
このときは異国のオリエンタルな空気に、
インディは少し緩んでいたかもしれない。

 

<第3話へ続く>