
夏休みの宿題”三匹の小太り”あとがき—チェーホフのレシート
このお話は何も起こらない話です。
未来の社会で暮らす主人公が、
旅に出る。
移動する。
到着する。
おわり。
何の事件も起こらない。
敵も出てこない。
主人公の成長もない。
作品のテーマすらない。
なのに世界を作りこんだ。
実際に移動しないのが普通の社会。
義体が自分の代わりに体験をさせてくれる。
義体からのセンサー情報が、
感覚神経に直接信号を送ってくる。
網膜に直接8kで送られてくる情報は、
全く現実と違いがない。
だから「実体験とバーチャルは違う」
なんていう、もっともらしいテーマもない。
だから飛行機の役目は物流のみになってる。
食料や薬、原料や燃料など物資だけは、
この時代も運ぶ必要がある。
かつて観光名所だった軌道エレベーターも、
産業と軌道上の管理という本来の役目に戻って
オワコン観光地として出てくる。
冒頭に出る「台京」という架空の地名ですら、
EUのような経済圏が出来ていて、
そこでは、円、元、台湾ドルが使用されており…
なんて物語に全く影響がない設定を盛り込んだ。
「チェーホフの銃」という言葉を知ってますか。
チェーホフという作家が残した言葉で、
「物語に銃出したら、発砲させんと」
つまり、物語に関係ないものを登場させるな
ということ。
作劇ルールとしてわりと鉄則です。
尊敬する宮崎駿は、これをかなり徹底してます。
宮崎駿に影響を受けているオレもいつもはそう。
歌詞だって、徹底的に考え抜いて作ってます。
ですが「三匹の小太り」では完全に逆をやった。
銃を47丁くらい床に散らかして、
まったく床を見ずに通り過ぎたお話。
住居ユニットが飛ぶ → 何も起きない。
次男が別府VR温泉 → 入っただけ。
台京 → 説明なし。
動く歩道 → ただ動くだけ。
義体 → 事件を起こさない。
軍服の入国管理官 → 普通のおじさん。
謎のスター → 誰だ。
ドローンバス → 単なるバス。
豪邸と犬と女の子 → 二度と出ない。
軌道エレベーター → 事故らない。
義体カップル → 肩ぶつけただけ。
そして、
地球を見て終わる。
「意味がある」ことに疲れてたんだと思う。
この短い夏休み。
短いと言っても年3回しかない長い連休。
レコ発ライブの準備、
新曲書かなきゃ、
約束の地購入者ページをやらないと、
小説書き終わってないの終わらせないと、
「こうしなければいけない」
から一度離れてみたかったんでしょう。
一番無駄で、今自分が一番楽しいことを、
連休を使ってやってみた。
結果、何も起こらない
日常系サイバーパンクの旅日記が出来ました。
チェーホフの財布の隅に入ってる、
半年前のレシート。
チェーホフのレシート。
オレの創作の実験作品として、
自分の中では残ると思います。
もう二度とやりませんw
この手の話では、
「鉄塔 武蔵野線」が心に残ってます。
鉄塔を順番に辿るだけの話。
伊藤淳史の子役時代デビュー作です。
久しぶりに見てみようかな。
